無名画家

2010年 霜月
一人の画描きが死んだ

56歳と9ケ月
男は無名だった

僥倖というほかはない

媚びることなく迎合もせず 男はひたすら描き続けた

描くことは生きること
描くことは生ききること

闘うのではなく向き合う
肉体と精神の境を凝視する
視線の先に無限の宇宙と時があった

妥協せず打算なく描き続ける
キャンバス上で筆は躍り色が舞う

頑として受け容れを拒むこともある

生きることは描くこと
生きることは描ききること

描きたいものを描ききれたのか

男以外誰にもわからない

男は死んだ
作品が残った

それらは朽ち果てるまで

人々にみられ続ける

2012年 春
佐藤 省象