『 海への道・涅槃まで 』

8(2002年) 

現在展示中の作品に、「海への道・涅槃まで」という題の絵がある。画面全体にはしっかりと赤を塗りこんでいる。そして、上部から右斜め下に白い帯状の曲線が下りてくる。さらに左右に黒を基調とした細い線が走り、画面の中央部あたりで交差する。最初にこの絵を展示したとき、強すぎる赤に、ちょっとえげつない絵だなあと、あまり気にいらなかった。ただ、このタイトルが気になった。海と涅槃。
 僕は昨年秋から、早朝の散歩をするようになった。そのコースの一つに糸が浜と呼ぶ海岸線を取り込んでいる。ここは砂浜と磯が両方楽しめる程よい散策コースである。東向きのこの海岸は天気が良ければ日の出を拝むことができる。そんな時にはお天道様に向かって柏手を打つ。話がわき道にそれたが、その時間帯の朝焼けが毎日違う容貌を見せる。空を焦がす朝焼け、海を染める朝焼け、強烈な紅色から淡いピンクとさまざまに楽しませてくれる。
 ある朝、不思議な体験をした。朝焼けを全身で受け止めながら歩いてるとき、この景色の中を歩いていると、涅槃にたどり着くのではないかと思った。俊造はこの一瞬を描いてみたいと考えて、「海への道・涅槃まで」をつくったのかもしれない。そういえば彼もよく明け方の海を歩いていたと聞いたことがある。
 ぼくのこじつけかもしれない。でも、案外そこにヒントがあったとしても不思議ではない。その体験があってから、絵が奥深いものに見えてきた。    (省象)